知命立命 心地よい風景

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呻吟語より学ぶ!

儒学は”修己治人”己を修め人を治む”の学だと言われています。
つまり、人を治める立場の者はなによりもまずそういう立場にふさわしいように己を修め、自分を磨く必要があるということですね。
そういった意味では”呻吟語”は、人間とはどうあるべきか、人生をどう生きるべきかなど、われわれにとって切実な問題をさまざまな角度から解き明かしている書物です。

呻吟語”は、明の時代の陽明学者・呂坤(字は叔簡。呂新吾ともいわれますが新吾は雅号です)が30年に及ぶ長年に亘って良心の呻きから得た所の修己知人の箴言を書き記し収録した、全6巻で内篇・外篇に分かれ17章から成る自己練磨・革新と修養の哲学書です。

shingingo

呻吟は嘆きうめくという意であり、呻吟語を貫く思想は以下の二つの言葉に集約されています。
【深沈厚重、安重深沈】
 深:深山のごとき人間の内容の深さ
 沈:冷静沈着で毅然としていること
 厚重:どっしりとしていて物事を修めること

17章の概略は、ざっとこのような感じです。

1章 性命篇:「第一級の人物」とはどんな人間か
2章 存心篇:もう一回り大きな人間になってみろ
3章 倫理篇:人間関係は天地の法則に則って考えよ
4章 談道篇:むずかしく考えるな、単純に考えよ
5章 修身篇:「第一級の人物」になるために何をすべきか
6章 問学篇:ほんとうに役に立つ勉強とは何か
7章 応務篇:袋小路に追い込まれたら発想を転換せよ
8章 養生篇:徳にあふれた人生を生きよ
9章 天地篇:宇宙の法則に順応して生きよ
10章 世運篇:時代変化をどう見抜けばいいのか
11章 聖賢篇:真のリーダーの思考と行動とは
12章 品藻篇:第一級の人物 その品格はどこから生まれるのか
13章 治道篇:国を治め、人を治めるリーダーの条件とは
14章 人情篇:人から信頼される人間になれ
15章 物理篇:大宇宙の心理をとことん探ってみよ
16章 広喩篇:仕事ができる人間はこんな発想をしている
17章 詞章篇:いったいどんな友人とつきあえばいいのか

では、この呻吟語を大きく6つのポイントにて整理してみることにします。

【第1 人間について】
 ○道理はつねに後へ退りがち
  欲望は前へ前へと進もうとする。これに対し道理は後へ後へと退ろうとする。
  自分を錬磨しようとする者はこのことをしっかりと心に刻みこんでおかなければならない。
 ○困難な課題から先に取り組む
  まず困難な課題に取り組み、成果はあとでゆっくり楽しむ。これこそ人格を完成させ仕事を達成する第一の秘訣である。
  この方針をしっかりと肝に銘じて堅持するならば、いかように非難を浴びようとも決して動揺することはない。
  仮に一ヶ月・一年と続けても、効果はないかもしれない。
  しかし、挫けず堅持すればやがては自然に成果が期待できる。
  修行というのは段階を追って一歩づつ完成をはかり、効果があらわれてくるのをじっくりと待たねばならない。
 ○本物ほどわかりやすい
  道を深く体得している人物ほど、語る言葉、説明がわかりやすい。
  難しいことを言う人は、道を体得することが浅い。
  文章も同じで、読んでもよく意味の汲みとれない文章は、本人の理解がまだ不十分だとされても致し方ない。
 ○己を修め人を修める
  上に立つ人間は、それぞれの立場において重鎮することが必要です。
  言い換えると、以下のように表現されるようです。
   第一等の人物:その人が黙っていても何事も治まる人
   第二等の人物:あっさりしていて腹中に大きなものを養っている人
   第三等の人物:聡明で弁も立つ人
 ○男性の八つの理想的な姿
  男には八つの景色がある。
   泰山喬獄の身:泰山や高い山獄のようにどっしりと落ち着いて見えること
   海濶天空の腹:広々として海、蒼々として何の遮るものもない空のようにゆったりとした腹
   和風甘雨の色:和やかな春風、甘くてやわらかな雨のような顔色
   日照月臨の目:陽が輝き、月が照り映えているような輝きのある目
   施乾轉坤の手:天をめぐらし地を転がせるような手
   磐石砥柱の足:磐石のようにどっしりとし、砥柱の中でもきちんとたっている足
   臨深履薄の心:深渕に臨んだり、薄氷を履むときのいき届いた心
   玉潔冰清の骨:玉のように潔く、水のように清らかな骨

【第2 修養について】
 ○智愚は他なし。書を読むと書を読まざるとに在り。
 ○切れ味は内に秘める
  鋭い切れ味は、充分に磨いておかなければならないが、切れ味は内に秘めて鷹揚に構えている必要がある。
  ところが最近ではひたすら切れ味の鈍さだけを心配している。これは愚か以外のなにものでもない。
 ○過ちを指摘されたら喜べ
  自分の過ちを指摘してくれるのは、必ずしも過ちのない人だとは限らない。
  過ちのない人に過ちを指摘してほしいと願っていたのでは、一生かかっても自分の過ちを耳にする機会はない。
  相手がたとえどんな人であれ、過ちを指摘してもらえるのは、ありがたいことだと思わなければならない。
 ○重要なのは人格の完成
  広く学問を窮める。すばらしい技術を身につける。これはこれで一つの長所だと言ってよい。
  しかし、人格の形成に終わりがないのと比べれば、これらのことはある段階にまで達するとそれで終わってしまう。
  重要なのは、立派な人格の形成、これである。
  能力を身につけることに比べると、人格を磨くことは難しい。現代の日本で人格形成の面が疎かにされていやしないか?
 ○智愚・禍福・貧富・毀誉の分かれ目
  智愚の分かれ目は、本を読むか読まないかにある。
  禍福の分かれ目は、善を実行するかしないかにある。
  貧富の分かれ目は、勤勉であるかないかにある。
  毀誉の分かれ目は、思いやりがあるかないかにある。
 ○相手の人物如何は問わない
  発言を聞き行動を観察することは、相手の人物を判断するポイントである。
  発言には耳を傾けるが人物如何は問わないのは、自分を向上させるポイントである。
  そもそも相手の発言に耳を傾けるのは、自分にとってプラスになるからである。
  自分にプラスになるならば、相手の人物がどうあろうと、いっこうに構わないことを知るべきである。
 ○発言に説得力をもたせる秘訣
  発言に説得力をもたせる秘訣は、普段から人に信頼される行動をすることである。
  そうでなかったら、せっかく発言してもかえって禍のタネになる。
 ○才能や学問の使い方を誤るな
  一人前の社会人として、才能もなく学問もないというのは、褒められたことではない。
  しかし、才能もあり学問もあるというのは、逆にまた心配のタネである。
  才能や学問を身につけるのは難しいことではないが、それを使いこなすことは難しい。
  才能や学問を重視するのは、社会人として世に出るためであって、それを鼻にかけるためではない。
  社会のために役立てるためであって、人にひけらかすためではない。
  才能や学問とは剣のようなもので、それが必要とされるときには使うが、そうでなかったら鞘におさめておいて人に見せびらかさない。
  やたらに振り回せば必ず禍の原因となるので、気をつけなければならない。

【第3 処世について】
 ○世に処するには、ただ一の恕の字。
 ○仕事を処理・進める四つの重要なポイント
  一、好機と見たら、断固決断することが望まれる。弱気になってはならない。
  二、辛抱すべきときには、あくまで我慢に徹することが望まれる。腰くだけになってはならない。
  三、ものごとの処理は、思慮深く沈着であることが望まれる。浅はかであってはならない。
  四、変化への対応は、機敏であることが望まれる。手遅れになってはならない。

【第4 人品について】
 ○必要なのは実践
  実際に問題にぶつかってみないと、自分の能力などたかが知れていることに気づかない。
  問題にぶつかるたびに、知識が増え能力が磨かれていき、実践体験を積んで経験となるのである。
  実践体験に欠ける人物は、ただ理屈を説いているに過ぎず、知識も生きた智恵として働かない。
 ○どちらの道を選ぶのか
  天下が治まるかどうか、人民が生きていけるかどうか、国家が安泰であるかどうかは、われわれ指導者が天下国家のための道を選ぶのか、わが身の地位や収入を増やすだけの道を選ぶのかにかかっている。
 ○大体を知る
  人材登用の権限を握っている者は、大局的な判断力を身につけていなければならない。
  こざかしい知識で人間を評価すれば、すばらしい能力をもった人物をすべて見落としてしまう恐れがある。
  なぜか。大きな問題を処理できる者は小さな問題の処理を苦手にしているし、長期的な計画を得意にしている者は小さな才能には欠けている。
  また、重大な任務を遂行できる者は目先の対応を苦手にしている。
  さらに、頭が切れて柔軟かつ機敏な対応を得意としている人物、礼儀正しく見聞の広い人物などは、重大な危機に立たされたときにはあまり役には立たない。。
  大体を知るためのポイントは、以下の2点である。
   一、細部にとらわれない大局的な判断。
   二、一方にとらわれないバランス感覚。

【第5 治道について】
 ○不必要な介入を避ける
  政治のコツは、
   民生を安定させようと思うなら不必要な介入を避けること
   与えたいと思うなら取り立てないこと
   プラスを生みたいと思うならマイナスを出さないこと
  である。
  また、衰えた活力をよみがえらせようとするなら、流れに逆らうようなムリ押しは避けなければならない。
 ○自然の流れを誘導すること
  人間には五つの性情があるが、これらはみな自分にとってプラスになることから生じてくる。
  一、利益を見ると飛びつく。
  二、美人を見ると愛情を抱く。
  三、飲食を見ると貪る。
  四、安逸を見ると身を置く。
  五、愚者や弱者を見ると欺く。
  プラスになれば、あえて上達しようとしなくても自然に上達するが、悪事にしても増やそうとしなくても自然に増える。
  プラスになることを禁止するのと、プラスにならないことを強制するのとは、難しさの点で同じである。
  何事も自然の流れに逆らってもうまくいかないため、自然の流れを見極めながらうまく誘導することが政治のコツである。
 ○生かすために殺す
  聖人が人を処罰するのは、処罰そのものをなくすことが狙いであった。
  それゆえ、処罰すべきときには断固処罰し、あえて姑息な手段を弄さなかった。
  結果、ごくわずかな人間を処罰しただけで、大勢の人間を活かすことができたのである。
  ところが後世では、処罰をためらうようになった結果、逆にますます処罰を増やしている。
  ごくわずかな人間を処罰するに忍びず、その結果として天下に悪をはびこらせている。
  つまり、処罰すべき人間を放置したままにすることによって、関係ないものまでが大勢処罰される羽目に陥っている。
  後世の人民が大勢処罰に処せられるのは、上に立つ者の小さな思いやりが仇となっている結果である。
  上に立つ者には”仁”(思いやりの心)がなければならないが、小さな仁では余計に政治の根幹を歪めてしまう。
 ○一人の失敗に懲りて
  偶然の事件に触発されて変更のできない法律をつくり、一人の失敗に懲りて天下の人々を苦しめる。
  これ以上おかしな法律はない。
  ”羮に懲りて膾を吹く”ともいう。
  政治のバランス感覚が問われるのは、こういう問題に対応するときである。
 ○法律が多くなると
  礼儀も規定が煩くなると、却って実行され難くなり、ついには捨てて顧みられなくなる。
  法律もやたら数が多くなると、却って破られやすくなり、法破りの重罪ばかり増えてくる。
  ”天下に忌諱多くして、民いよいよ貧し。法物ますます章かにして、盗賊あること多し”(老子
 ○極点に達すると反動がくる
  暑さが退こうとするときには、一瞬かっと熱くなる。
  夜がまさに明けようとするときには、一瞬すっと暗くなる。
  球を勢いよく壁に投げつけると、ぽんと手もとにはね返ってくる。
  このように、物事は極点にまで達すると必ず反動が起こし、そこまで達しなければ反動は起こらない。
  愚者は、極点に達したことを喜ぶが、智者はむしろその反動を恐れる。
  従って、天下の乱れが極点に達するのは好ましいことである。
  泰平が極点に達した状態こそ、むしろ恐れるべきである。
 ○進言のコツ
  上級者に進言する場合に、難しいことが四つある。
   一、相手を知ること。
   二、自分をわきまえること。
   三、問題を把握すること。
   四、時期を誤らないこと。
  このうちの一つでも欠けていたのでは、成功しない。

【第6 人情について】
 ○批判には余地を残す
  人を批判する場合には、相手に5割の過ちがあっても、批判はそのうちの3,4割程度にしたほうがよい。
  そうすれば、相手も恐れ入って素直に耳を傾け、つまらぬ弁解もしないであろう。
  もし5割をそのままで批判すれば、こちらの度量の狭さをさらけ出すばかりか、相手を救う目的も達することができない。
  更に、それ以上の批判をしたならば、相手に弁解の口実を与えることになる。
  相手は、想定を超えたことによって元々の5割のことまで含めて弁解するし、批判した方も結果5割のことまで無効にしてしまう。
  厳しさが過ぎると必ず反発が起こるので、人を批判する場合にはこのことをくれぐれも戒めなければならない。
  批判に際しては、余地を留める配慮が望まれる。
 ○相手の立場になって考えてやる
  相手に思いやりを示すのに、六つの場合がある。
   一、見識がまだ不十分だったのではないか。
   二、見聞したことが、実情とズレていたのではないか。
   三、力量が足りなかったのではないか。
   四、心に何か人知れぬ悩みがあったのではないか。
   五、どこかに気持ちのゆるみがあったのではないか。
   六、何か別の考えをもっていたのではないか。
  この六つの思いやりを優先させ、それでも相手が言うことを聞かず、教えても態度を改めなかったら、初めて処罰する。
  上に立つ者は、相手を責める前に教えることを優先させ、相手を怒る前に理解することを優先させることを基本的な心構えとしなければならない。
 ○相手の能力を引き出す
  象は大量の水を飲み干せるが、鳥はわずか数滴の水しか飲むことができない。それで象も鳥も腹一杯に飲んでいる。
  牛や馬は大量の荷物を引くことができるが、蟻はわずかな量しか運ぶことができない。それで牛馬も蟻も全力を尽くしている。
  人を使う場合には、相手がそれぞれの長所を発揮できるように仕向け、、決して同じような実績を期待してはいけない。
  人間の能力には違いがあるので、人材の育成時にも同じ型に嵌め込むんではなく、それぞれの能力を引き出す配慮が望まれる。
 ○譲れば争いは起こらない
  二つの物がぶつかれば、必ず音を立てて壊れる。
  二人の人間が交われば、必ず争いが起こる。
  音を立てて壊れるのは、両方とも固いからであり、両方とも柔らかいなら、音も立たず壊れることもない。
  また、一方が固くても他方が柔らかいなら、やはり音も立たず壊れることもない。
  争いが起こるのも同じではないか。
  双方とも譲るなら争いは起こらないし、一方が欲深でも他方が譲るならこれまた争いは起こらない。
  それよりもさらに望ましいのは、柔らかいほうが固いほうを軟化させ、譲ったほうが欲深い相手を感化させることである。

こうした分類を元に、呻吟語のエッセンスを抽出してみることにします。

まずは、人として持つべき人格について、その形成の方法と心身の鍛錬法における心得です。

【人生の心得八カ条】
1.奮始怠終は修業の賊なり
 初心を最後まで貫徹する。

2.躁心浮気は蓄徳の賊なり
 やろうと思ったら集中せよ。

3.疾言厲色は処衆の賊なり
 憎しみ、怒りの心を捨てよ。

4.大事・難事には担当を看る
 大きな難題に立向かう時、真の能力が表れる。

5.逆境・順境には襟度を看る
 人生の順調、不調の時こそ、真の人格が表れる。

6.臨喜・臨怒には涵養を看る
 喜びや怒りの感情は思いのまま表しても、その心の奥は感情に囚われない。

7.群行・群止には識見を看る
 組織による行動、個人の行動には判断力が問われる。

8.精神爽奮すれば則ち百廃倶に興おこる。肢体怠弛すれば則ち百興倶に廃すたる
 ”やるぞ! ”と気持ちを切り替えよ。

次は、道を志すものが持つべき七つの見識についてです。

【人生に必要な七つの見識】
1.人情の識 - 感情と知性の調和
 人情の本義は「人間として自然に備わっている心の動き」のことである。
 人は単なる知性の存在ではなく複雑な感情・人情を保有しているため、その感情の本質を理解することが「人情の識」である。
 これには人生経験を積む必要があるが、人情という感情と知性をどのように調和させるかが大事であり、そこから生きる知恵が生まれる。
 人情と長幼の序は決して相反するものではなく、人間知の有効活用に資するものがある。

2.物理の識 - 現象に対応

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